東京高等裁判所 平成10年(行ケ)256号 判決 1999年9月30日
原告
倫道観寺
代表者代表役員
A
訴訟代理人弁理士
B
被告
C
訴訟代理人弁護士
萬幸男
同弁理士
D
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 原告が求める裁判
「特許庁が平成5年審判第16817号事件について平成10年6月29日にした審決を取り消す。」との判決
第2 原告の主張
1 特許庁における手続の経緯
被告は、「算命学」の漢字を横書きしてなり、旧第26類「雑誌 新聞」を指定商品とする登録第2519676号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。なお、本件商標は、平成2年2月9日に登録出願され、平成5年3月31日に商標権の設定登録がされたものである。
原告は、平成5年8月18日に本件商標の商標登録を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は、これを平成5年審判第16817号事件として審理した結果、平成10年6月29日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年7月21日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
別紙審決書の理由(一部)写しのとおり
3 審決取消事由
審決は、「算命学」の語が原告の業務に係る商品あるいは役務の表示として周知であることを誤って否定した結果、原告の審判請求を退けたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1)審決は、「算命学」の語が現在は普通に使用されている以上、原告がその業務に係る書籍あるいは役務について使用している「算命学」の語は、書籍あるいは役務の内容を表示するために使用されているのであり、出所表示機能を有しないとして、「算命学」の語は原告の業務に係る商品あるいは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとはいえず、したがってまた、被告が本件商標を使用しても原告の業務に係る商品あるいは役務と混同を生ずるおそれがあるともいえない旨説示している。
しかしながら、古代中国に生じた「算命学」なる占術ないし思想は、原告の創立者である故Eによって昭和36年に初めてわが国に紹介され、同人の精力的な普及活動によって広く知られるに至ったものであって、現在は原告の教育部門である「算命学総本校高尾学館」が故Eの承継者として教授普及しているものである。そして、原告は、「算命学」の漢字を含む多くの標章について商標権を有しており、「算命学」の語を含む題号の書籍も数多く発行している。
このように、「算命学」の語は、故Eあるいはその承継者である原告の業務に係る商品あるいは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されてきているのであって、被告が本件商標をその指定商品に使用するときは、原告の業務に係る商品あるいは役務と混同を生ずるおそれがあることに疑問の余地はない。審決の前記説示は、書籍あるいは役務の内容を表示するために使用されている語が、同時に出所表示機能をも有する場合があることを看過したものであって、失当である。
(2)この点について、被告は、日本における「算命学」の教授普及に指導的役割を果たしたのは被告の父Fが初代校長である「朱学院」である旨主張する。
しかしながら、「朱学院」は、故Eが、弟子であったFを校長として昭和47年に創立した「朱学院算命学塾」が名称を改めたものであるから、わが国における「算命学」の教授普及がもっぱら故Eあるいは原告によって行われているとの原告の主張に誤りはない。
(3)ちなみに、故Eは、「算命学」の漢字を横書きしてなり、旧第26類「新聞 雑誌」を指定商品とする登録第1448333号商標の商標権を有していたが、同商標は平成2年12月25日に消滅し、その後に、被告を権利者とする本件商標の商標登録がされたものである。
第3 被告の主張
原告の主張1,2は認めるが、3(審決取消事由)は争う。
審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。
1 原告は、「算命学」の語は、故Eあるいは原告の業務に係る商品あるいは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている旨主張する。
しかしながら、「算命学」の語は、古代中国に生じた占術ないし思想の名称であって、審決認定のとおり、現在においては普通に使用されているものである。したがって、「算命学」の語が、故Eあるいは原告の業務に係る商品あるいは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているという原告の主張は、事実に反する。
2 原告の主張は、わが国における「算命学」の教授普及がもっぱら故Eあるいは原告によって行われてきたことを前提とするものである。
しかしながら、日本における「算命学」の教授普及に指導的役割を果たしたのは、被告の父Fが初代校長である昭和49年創立の「朱学院」であって、Fには「算命学」に関する多数の著作も存在する。そして、原告主張の「算命学総本校高尾学館」が創立されたのは昭和63年であり、同学院の校長も「朱学院」の卒業生なのである。
したがって、本件訴訟における原告の主張が前提を欠くものであることは明らかである。
理由
第1 原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由)は、被告も認めるところである。
第2 原告は、「算命学」の語は故Eあるいはその承継者である原告の業務に係る商品あるいは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されてきており、したがってまた、被告が本件商標をその指定商品に使用するときは原告の業務に係る商品あるいは役務と混同を生ずるおそれがある旨主張する。
確かに、原告が援用する甲号各証によれば、「算命学」あるいは「算命」の語、さらにはこれらをその一部を含む語が、故Eの著作の題号として、また、故Eあるいは原告の業務に係る役務の内容の表示として、頻繁に使用されている事実を認めることができる。
しかしながら、同時に、「算命学」の語が、元来、古代中国に生じた占術ないし思想の名称であることは当事者間に争いのないところであるうえ、乙第1号証によれば、Gほか編「漢和中辞典」(株式会社旺文社昭和57年2月20日発行)842頁には、「算命 (中略)運命をうらなう。うらない。」と記載されていることが、乙第5号証によれば、H著「徳川家康 11」(昭和48年4月20日第20刷発行)には、中国伝来の占星術に関するものとして「算命学」の語が用いられていることが認められる。また、乙第19,第21,第22号証によれば、昭和49年9月13日、「算命学による塾及学校運営」や「算命学によるコンサルタント業務」等を目的とする株式会社朱学院が、故E及びF(同社の現代表取締役)によって設立されたことが認められる。さらに、乙第2,第4,第6,第7,第9,第10号証によれば、「算命学」あるいは「算命」の語、あるいはこれらをその一部に含む語は、故E以外の者の著作の題号としても、また、故Eあるいは原告以外の者の業務に係る役務の内容の表示としても、遅くとも昭和50年代から頻繁に使用されている事実を認めることができる。
そうすると、「算命学」の語は、少なくとも占術ないし思想に関心を有する者の間においては、古代中国に生じた占術ないし思想の名称として普通に用いられてきており、故Eあるいは原告の業務に係る商品あるいは役務に関して用いられるときも、それらの名称としてというよりは、むしろそれらの題号あるいは内容を示すものとしてのみ認識されていたと認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、「算命学」の語は、故Eあるいは原告の業務に係る商品あるいは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されてきていることを前提とする原告の本訴請求は、その余の点を検討するまでもなく、失当なことが明らかである。
第3 よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成11年7月29日)
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)